〔1〕施設が誕生した背景について きそがわ作業所の前進となる『きそがわ共同作業所』は、国の法律に基づかない無認可施設小規模作業所として、1982年にスタートしました。 当時は、全国的に作業所づくりが急速に進展した時期ですが、その背景の一つには、障害児の不就学をなくすためのいろいろな運動の結果実現された「養護学校の義務制」が関係されていると言われています。この義務制の実現により、これまで在宅で学校に行くこともできなかった障害の重い人も学校に行き学ぶことができるようになりました。そして、学校卒業後もどこか行く所が欲しいという願いが大きく高まり、その進路の一つとして障害者の社会参加、労働権保障等の場として共同作業所は全国で次々と誕生してきました。人口約3万人の自治体の愛知県葉栗郡木曾川町においても、こうした歴史的背景の中で障害者やその保護者、ボランティアの献身的な努力と行政への粘り強い働き掛けにより、きそがわ共同作業所が誕生しました。
後ろ側に見える建物は3DKの普通の平屋の民家です。ここに当時10名程度の障害者の方とボランティアと職員で下請けなどの軽作業を行って過ごしていました。 以後10年間の小規模時代を経て、その発展延長線上に社会福祉法人きそがわ福祉会、きそがわ作業所があります。
きそがわ作業所は、今年で6年目、小規模時代から通算16年目を迎えました。現在、作業所には40人の障害を持つ人が通ってきています。法律上は『精神薄弱者福祉法』に基づいた「精神薄弱者通所授産施設」です。 授産施設とは「障害を持つ人を作業指導、生活指導し、自活を促し、社会就労を目指す」という目的で作られた施設です。 主たる障害は、知的障害の人が多いのですが、木曾川町内唯一の障害者施設として、開所以来の特徴の一つで身体障害や精神障害等の重複障害の人も多数通所してきており、重度障害を持つ人も多数です。
毎日下請け作業、EMボカシ作り、ふきん作りなど、仕事を軸に療育活動にも取り組み、豊かに発達していくことを目指しています。
作業所のオリジナル商品です。ボカシが左隅の下の方にあります。 職員配置は13名の常勤職員と、5名の非常勤職員となっています。職員の人件費と施設運営費の多くは、国や地方自治体からの補助金が基本となっており、民間社会福祉施設と言えども公的補助制度の充実がなくてはならない重要な部分という立場で、小規模時代より今日まで行政当局関係者との話し合いを大切にしてきました。そんな中で、援助者である職員の配置を増やしつつ、希望される障害者の人をできる限り受け止めてきました。 〔2〕きそがわ作業所の EMボカシとのなれそめ きそがわ作業所では、施設利用者である障害者の人達のことを仲間と呼ぶことがしばしばあります。共に働く仲間といったニュアンスです。 施設では、すべての仲間たちに合わせた仕事や療育活動を準備することが授産施設職員の重要な業務の一つとなっています。職員は、仲間に合った仕事を開拓していくために、日常的に様々な情報を見聞きすることを大切にしています。 そんな中で1994年8月頃、長年の地域の協力者でEMのことを勉強された方があり、当施設でEMボカシ作りをやってみたらどうかと紹介がありました。 その後の職員会議で話し合いをして、早速調査活動を行うことになりました。同時に、保護者会でも話題になり、保護者の人達もEMボカシに興味を持たれ、EMボカシ作りを仲間の仕事に是非と盛り上がってきました。 調査を進める中で、EMボカシ作りの開発者は環境浄化を進める会の奥村氏であることが分かり、事務局のある岐阜県可児市の奥村氏宅を訪問し、EMボカシについていろいろと手解きを受け、試行錯誤を繰り返しながら今日にいたっています。 今日改めて当施設でボカシ作りを重要な授産科目として大切にしてきたわけを述べると、次のようなことが挙げられます。 1、EMボカシは障害に関係なく、ほとんどの仲間が製造、普及の過程で楽しく関わることができ、とりわけ障害が最重度の仲間も充分に関わることができる優れた素材である。 2、EMボカシは地域の人達が施設に買いに来ていただくことのできる貴重な品物であり、授産収入の安定につながる可能性があるだけでなく、ボカシを通して施設がますます地域に根差していくことにもつながる。 〔3〕きそがわ作業所でのボカシづくり きそがわ作業所では、3つの仲間集団があります。それぞれの現場では、それぞれのリズムでEMボカシ作りを行っています。その中でも、今回は1つの現場と、今年新たに編成された『環境班』の活動を紹介したいと思います。
Aグループは、仕事を行うことが必ずしも課題ではない段階の重度重複障害の人達のグループです。写真のように散歩に出たり、体のリハビリを行うなど、仕事以外の様々な活動を行っていますが、その中でボカシ作りは貴重な実践となっています。ちょうど4月頃より、Aグループの職員数も強化され、取り組みが以前よりきめ細かくできるようになって来ました。
仲間たちは、EMボカシの仕込みで最初に混ぜ合わせるという工程に関わります。モミと溶液を十分に混ぜ、次に糠と一緒に混ぜ合わせます。この工程の中で、職員は計量の部分では責任を持ちますが、それ以外の場面ではみんなの力で行います。
踊っているように見える彼女ですが、彼女は歩行、食事など全面介助を必要とします。そんな彼女らが全身ヌカまみれになって本当に楽しそうにEMボカシの仕込みを行っている姿は、大変たくましく、また微笑ましく見え、実際にこの活動はきそがわ作業所を支えている重要な一つになっていると確信しています。
画面は障害の軽度の方が軽やかにEMボカシを慣らしていますが、出来上がったEMボカシを完成させる場面でも、シートの上に容器の形のまま出したボカシをバラバラにしていく工程で、障害の重い人も参加しています。シートを広げ、熟成したEMボカシの入った容器を置くと、すかさず容器をひっくり返そうとする仲間。乾きやすいように保護者の方が作ってくださった特製のトンボで広げていく仲間など様々です。 てください。 昨年の夏、岐阜県で行われたEMボカシネットワークの研修会では、ボカシ製造に関して溶液を米の研ぎ汁で作った場合と、水で作った場合の比較検討実験を発表することになり、Aグループの職員がこの担当になりました。そんな中で熟成中のボカシの様子を見る力についても、職員の一定の前進がありました。 次に環境班というグループの活動を紹介します。EMボカシ作りを始めて3年経った今年、ボカシ作り、ボカシ合え、畑での作物づくり、廃品回収などを通して環境を意識していく、そんな中で授産施設としての作業活動をいっそう充実させていくことを狙いとして、新たに環境班が編成されました。 実際にEMボカシ作りの楽しさに加えて、環境のことも考えていく、それは自分たちの暮らしている地域社会を知っていくことにもつながる大切な部分と考えています。
毎日のボカシ合えは、調理場から出た昼食の野菜屑、残飯で行いますが、仲間たちにしっかりと定着しており、その日の当番の人はやる気満々の状況です。毎日出るニンジンとタマネギの皮がどこに使われていたかを意識していて「今日はポテトサラダの中だった」「味噌汁の具だった」などと鋭く教えてくれます。調理員さんとも楽しく会話が弾みます。
畑にボカシあえを埋めに行きます。畑にボカシ合えを埋めに行くときには、畑になった作物の成長具合を観察し、時には実際に食べてみて、ボカシ合えの土からできた作物を味見することもあります。たとえ少しの時間でも、このような観察は自然を感じる貴重な取り組みとなってきました。まだ始まったばかりの環境班ですが、ボカシ作り、ボカシ合えと取り組み、畑づくりにも本格的に取り組んで行こうと予定しています。 このような活動を通して、仲間の中にますますEMボカシの良さを人に伝えていける力が育っているようにも思います。
〔4〕EMボカシネットワーク EMボカシネットワークを通してボカシ作りや普及のことについての交流、その他いろいろなことでの交流も行っています。これまで他施設の方が来所され、一緒にボカシを作ったり、こちらから他施設を訪問したり、保護者同士の交流会も行われました。写真はただ仕込み作業を行っているように見えますが、実は3つの施設の合同作業の様子です。さらに今年7月に発会したEMボカシネットワーク中部支部では、ボカシという存在を元に人間としての思いやり、優しさについても改めて大切に見つめ直しています。 また、EMボカシネットワークの機関紙であるEM研究機構発行の「ザ・ボカシ」については、印刷の終わったニュースを折りたたんだりする仕事を当施設の仲間たちの下請け作業として行わせていただいています。皆で原稿や写真を読みながら、楽しく取り組むことができ、大変良い仕事に位置づいています。
私たちは仲間たち、施設利用者である障害者が人間として豊かに発達していけることを目指し、実践を進めています。
EMボカシ作りは、ボカシを作る楽しさだけでなく、仲間たちが人に環境のことを考えようと訴えることができる逸材です。さらに、自然を感じ、作物を育て、愛しむことができる逸材です。そういった意味で、私たちはEMボカシを『作り、普及するための物』と言うよりは、仲間たちの『全面発達保障実践のための大変優れた素材』と位置づけて取り組んでいます。 【うめもと さちほ】 |
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−1997.11.9
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